「葬儀」は、信じている宗教によってやり方が大きく変わってくるものです。
また葬儀は、故人を送り出すものであると同時に、残された家族が心にひとつの区切りをつけるために行うものでもあります。
このため、「感情的な面」「精神的な部分」「信心」によって左右されるところが大きいものであるともいえます。
また実際には信仰している宗教とは関わりのないものであっても、「縁起が悪い気がするから……」という理由で避けられているものもあります。
「友引」などは、その最たるものといえるでしょう。これについて解説していきます。
友引(ともびき)とは、暦のうちのひとつである「六曜(ろくよう。りくようと呼ばれることもある)」のなかに含まれている言葉です。
友引のほかには、先勝(せんしょう・せんかち)、先負(せんぷ・せんまけ)、仏滅(ぶつめつ)、大安(たいあん)、赤口(しゃっこう・しゃっく)の5つがあります。
このなかでも、「仏滅」「大安」は比較的よく耳にするものでしょう。
六曜は日本でも比較的メジャーなものであるため、これを記載したカレンダーなども広く売られています。
六曜が誕生した土地は、中国だといわれています。
ただしいつ頃に誕生したものかははっきりとはわかっていません。
14世紀頃に日本に伝わったともいわれていますから、少なくともその前にはできていたと考えるのが自然でしょう。
このように、六曜はそもそも「なぜこのような考え方が生まれたのか」さえ曖昧なものです。
六曜はしばしば仏教の考え方に基づくものだと誤解されていますが、実際にはまったく関係のないものです。
おそらく「仏滅」などのような言葉から仏教と結び付けて考えられるようになったと思われますが、寺院側でもこれを否定しています。
明確に「六曜と仏教は関係がない」とされています。
しかしそうであるにも関わらず、「仏滅の日はうまくいかない」「結婚式をするのならば大安の日を」という考え方は今でも深く根付いています。
また今回取り上げる「友引」も、葬儀の世界では忌避する人がいるものです。
友引は、「友を引く」と書くことから、「亡くなった人が友人を連れて行く」と考える人がいるわけです。
友引自体は迷信であり、友引の日に葬儀を行ったからといってほかの人が亡くなることはありません。
そもそも仏教とも、またほかの宗教とも関わりのない価値観ですから、不安に思う必要はないのです。
このため周りが「友引の日に葬儀をするなんて、縁起が悪い」などと言ってきても、基本的には気にする必要はありません。
ただ、上でも述べたように、葬儀は「心」の問題です。
だれか1人が強硬に反対している状態で、友引の日に葬儀を強行してしまえば、後後まで禍根となって残りかねません。
そのため、だれかが反対するのであれば、友引の日に葬儀を行うことは避けた方がよいでしょう。
宗教への帰属意識や迷信への関心が薄れた今となっても、「やっぱり気にかかる」という人がいるのであれば、その人の心に寄り添うことが重要だからです。
このようなことを受けてか、やはり友引の日には葬儀の数は少なくなる傾向にあります。
たとえば、東京の臨海斎場などは「友引の日はそうではない日に比べて、稼働率が11パーセント程度下がる」とコメントしています。
また、名古屋市の斎場などでも、「友引の日は設備点検のために斎場を休みにする」としているところもあります。
このため、「現在は気にする人も少なくなったが、それでもほかの日に比べれば友引の日の葬儀は避けられる傾向にある」とはいえます。
また、「友引と葬式・告別式の日が重なる場合は、通夜を友引の日にしてその翌日を葬式・告別式の日にするのが基本」としている葬儀会社もあります。
これは利用者の心に添う判断であるとともに、上でも述べたように「友引の日は休みにしている火葬場も多い」という現実的な理由からだといえます。
出典:
名古屋市八事斎場
Nくらし&ハウス安心・安全「首都圏の「火葬場不足」現実に、「友引」の稼働も増加」
「喪主は気にしないが、周りの人が気にしている。ただ、実際問題として友引の日を外して葬儀を行うのは難しい」
「菩提寺のご僧侶様が忙しくて、この日しか時間がとれない」
などのような理由で、友引の日に葬式・告別式を行わなければならない……というケースもあります。
何度も述べているように、友引自体は迷信です。
ただ反対している人がいたり、自分の心が納得できなかったりするのであれば、たとえ日付はずらせなくてもその「納得のいかない心」に寄り添える選択肢をとる必要が出てきます。
そのために役立つのが、「友引人形(ともびきにんぎょう)」です。
人形は人の形をしています。
れを棺に入れることで、「(生きている人間ではなく)人形を代わりに連れて行ってください」という気持ちを込めるのです。
この「友引人形」は広く知られており、さまざまな葬儀会社がこれを扱っています。
なんでも通販で取り寄せられる現在ですが、友引人形の扱いはあまりなく(あっても、一般的な「友引人形」とは少しかたちが異なることが多いのが現状です)、また取り寄せるのにも時間がかかります。
葬式・告別式は、故人が息を引き取ってから2~3日後に行われることが多いものですから、葬儀会社にお願いするのが一般的です。
葬儀会社から友引人形のことを切り出されることもありますが、特になければ喪家側から「友引人形を用意してほしい」とお願いするとよいでしょう。
友引人形の金額は、葬儀会社ごとによって異なります。
ただ3000円くらいの値段がつけられていることが比較的多いように思われます。
棺に入れて一緒に焼くことになるので手元には残りませんが、「友引」を(少しではあっても)気にする人にとっては重要な供養道具となるでしょう。