「花」は、古来から亡き人に捧げるものとしてよく知られています。
縄文時代の土葬の跡からも、その穴に一緒に花が入れられていたとされています。
加えて、中石器時代でも、イスラエルで亡き人のお墓に花が供えられていたといわれています。
葬儀のときにも、花は必ず用いられます。
仏式・神式・キリスト教式で、それぞれ祭壇は異なりますが、葬儀の席において一切花が用いられない……ということはありません。特に枕飾りにおいては、必ず花が飾られています。
このように、「花」は昔から弔いの場によく用いられてきたものなのです。
今回は、「お墓にお供えする花」に焦点を当ててお話していきます。
目次
まずは、お墓にお供えする花の基本についてみていきましょう。
お墓にお供えする花のなかで、もっとも手軽に手に入れられるのは「仏花」です。
これはいくつかの花をまとめて小さめの花束にしたものです。
お墓にお供えするのにぴったりな花ばかりを集めたもので、彩りも考えて作られています。
そのうえ、「1束〇円」というかたちで売られており、すでにまとめられているので、花束を作ってもらうための時間も必要ありません。
300円程度でもきれいな花が手に入れられるため、迷ったのならばこれを使ってもよいでしょう。
スーパーなどで手軽に買うことができるのもメリットです。
そのままお墓の花瓶(花立て)に入れることができるので、誰でも簡単に扱えます。
意外に思われるかもしれませんが、お墓にお供えする花は造花でも良いとされています。
特別な事情がない限り、葬儀に使われるのは「生花」と決められています(※ただし、一部では造花を使った祭壇も作られています。もっとも造花でつくる祭壇は極めてまれです)。
また葬儀のときにお供えとして用いる花も、生花にするのがマナーです。
しかしお墓に供える花については、造花でも問題がないとされています。
これは、「造花ならばいつまでたっても美しい」「花弁が散ってお墓を汚すような心配もない」というところからきています。
「通常時は造花にして、お参りを行うときだけ生花にする」とする考え方もあるようです。
現在は造花であっても、生花と見分けがつかないほどの美しさと精巧さを持っているものもあるため、これらを利用してみるのもよいでしょう。
後述しますが、お墓にお供えする花に明確な決まりはありません。
そのため、実際にはいろいろな花が用いられます。
ただ、比較的よく使われる花としては以下のようなものがあります。
仏花としてもっともメジャーな花であり、弔いの儀式に広く使われています。
日本人にとって非常になじみ深い花であり、祭壇を作るときにも、お供えをするときにもよく使われています。
なお、菊=日本のものという印象があるかもしれませんが、フランスなどでも菊の花を持参することもあります。
菊は長持ちする花であること、花弁があたりに散乱しないことからよく用いられていました。
菊には、白や黄色などの色があります。
どちらも弔いの色にふさわしいものです。
また、白の菊と黄色の菊の両方を持っていくこともあります。
母の日の花として有名なカーネーションですが、特に白いカーネーションは「亡き母を偲ぶ」という花言葉を持っています。
母の日にお墓に供える花として最適ですが、カーネーションの可憐なたたずまいは母の日に限らずそれ以外の日でも、お墓に供える花としてぴったりだといえるでしょう。
白いカーネーションはなかなか手に入らないかもしれませんが、オレンジや赤色のカーネーションを用いても問題ありません。
百合もまた、「弔いの花」としてよく知られています。
高貴な花であり、「純潔」「威厳」「無垢」などの花言葉を持ちます。
亡き人への敬意を示すために用いられる花であり、こちらも広く使われています。
百合の花は、キリスト教の献花のときによく用いられる花です。
また仏教でもよく用いられる花でもあります。
存在感があり、美しく、凛としたその姿は、お墓参りにピッタリの花だといえるでしょう。
これは、「花」というよりも「緑の植物」です。
榊と樒は同じ緑の植物ではありますが、その性質はまったく異なります。
榊は神道の植物であり、神式の祭壇にも使われるものです。
対して樒の場合は仏教の植物です。
上で挙げた3つの花は、宗教を問わずに使うことができます。
しかし榊と樒は強い宗教色をまとうため、使える範囲が限られてきます。
花とは異なり、荘厳な雰囲気を持つのが榊と樒の特徴です。
これ以外にも、ストックやリンドウ、カスミソウなどの花がよく用いられます。
お墓にお供えする花は、
- ・色が控えめで
- ・花弁が散りすぎず
- ・強すぎる香りは持たないもの
が中心となります。
また、棘のある植物も避けられる傾向にあります。
しかしこれは、あくまで「このような傾向がある」というだけの話です。
「絶対にこの要件をクリアしなければならない」というわけではありません。
お墓にお供えする花は、故人が愛したもので……と考える人も非常に多いものだからです。
たとえば、「故人はバラが好きだった。棘もあるし、真っ赤な花でもあるし、香りも非常に強いが、これを供えてあげたい」と思えば、これをお墓にお供えしても構いません。
また、故人がお手入れしていた花が咲いたのならば、それを持っていくのもよいでしょう。
このように、「故人が愛した花で見送る」という姿勢は、現在の「葬儀の祭壇づくり」にも通じています。
しかしお墓にお供えする花に関しては、その「葬儀の祭壇」よりもなお自由度が高い傾向にあると考えられています。
まとめられた仏花を購入することも、散らない造花を買うことも、スタンダードで扱いやすい一般的な花を選ぶことも、故人の好きだった花を選ぶことも、どれも否定されるべきことではありません。