「葬儀」は多くの人にとってなじみのないものです。
特に初めて喪主になる人や、初めて葬儀に参列する人などは戸惑いも大きいことでしょう。
自分が「参列者」の立場で参加することと、「喪主・遺族」としての立場で葬儀を執り行うのとでは、必要となる知識もまったく異なります。
ここでは「喪主・遺族」としての立場で葬儀を執り行うときに知っておきたい知識のひとつである、「自宅と祭壇」について解説していきます。
葬儀の際に飾られることになる可能性があるのは、
- ・枕飾り
- ・後祭壇
- ・葬儀の祭壇
の3つの祭壇です。
それぞれ解説していきます。
なおここでは、特記しないかぎりは仏式の葬儀を想定していると考えてください。
また、亡くなった人の安置場所として自宅が選ばれているというモデルケースだと思ってください。
「枕飾り」は、自宅に置かれる祭壇のなかでもっとも早い時期に置かれるものです。
これは、「故人が安置された部屋に置かれるもの」です。
名前の通り、故人の枕元近くに置かれるのが一般的で、「仮祭壇」とも呼ばれています。
基本的には仏教や神式の葬儀のときに用いられるものであり、キリスト教ではこの枕飾りは必要としません。
しかし「日本でのキリスト教の葬儀」においては用いられるようになってきています。
このあたりは、「海外の宗教がほかの国にわたったときに、その国の文化性にあわせて少しずつかたちを変えていくこと」を象徴する話だといえるでしょう。
なお、仏教であっても浄土真宗の場合は、基本的には枕飾りは設けません。
浄土真宗ではなくなった方はすぐに成仏すると考えるからです。
ただこのあたりも気持ちの問題ですから、浄土真宗でも枕飾りを設けることはあります。
枕飾りは、かなりサイズの小さいものです。
小ぶりの机に白い布などをかけて作られるもので、お祀りのための必要最小限のものが飾られます。
仏教では、花瓶や枕団子、線香や燭台、水や香炉、お鈴などが置かれます。
ただし宗派によって置かれるものには多少の違いがあります。
神式の場合も花瓶を用意します。
また、燭台も置きます。
水や塩、洗った米も置きますし、御霊代も配します。
神式の枕飾りの場合は、お神酒も置かれます。
キリスト教の原則としては枕飾りは置きません。
しかし上でも述べたように、日本のキリスト教式の葬儀の場合は、枕飾りが広く用いられます。
燭台や花瓶を置き、聖書や十字架を並べます。
また仏教や神式とは異なり米は用いず、代わりにパンを置きます。
これはキリストがパンを己の肉にたとえたことに由来すると考えられています。
なお枕飾りの大きさは葬儀会社によって多少の違いはありますが、1畳を超えるものはあまりありません。
枕飾りは、故人の生前の欲を清めるために置かれるものです。
また、駆け付けた親族が手を合わせる対象としても使われています。
枕飾りと非常に関係が深いものとして、「後飾り」があります。
枕飾りは故人の安置~葬儀の終わりまで飾られるものですが、後飾りは葬儀後~四十九日法要までの間に自宅に飾られる祭壇をいいます。
この後祭壇は、故人の行く末が良きものであることを祈って組み立てられるものです。
故人は旅に出た後49日間をかけて旅をし、審判を受けます。
遺された人間が徳を積むことで故人を手助けできると考えられており、かつては7日間ごとに供養が行われていました。
後飾りは、この「7日間ごとの供養」を行うための祭壇なのです。
「修行がまだ終わっていない故人は仏壇の中に入れることができない」という考え方から仏壇があるお家でもこの後飾りを設けていました。
また「この家で人が亡くなったのは初めてだから仏壇が用意できていない」というお家では仏壇が届くまでの間、手を合わせるための場所として設けられてきたという経緯があります。
後飾り祭壇は、枕飾りに比べて大きく、2段~3段になっているのが基本です。
遺影や白木の位牌、ご遺骨、お供え物、香炉、燭台、お鈴や線香、花瓶などが置かれます。
また両脇に回転灯籠が置かれたり、頂いた供花が置かれたりすることもあります。
宗教や宗派によって、後飾りのとらえ方は異なります。
上でも述べたように、浄土真宗の場合は追善供養は必要としません。
そのため浄土真宗では基本的には後飾りは用いませんが、慣習的に設ける場合もあります。
ただ、ほかの宗派よりも簡素なかたちにとどまることが多いようです。
枕飾りは、「葬儀が終わり火葬が終わり、繰り上げ初七日法要と会食が終わり、ご家族がご自宅に戻ったとき」に撤収が行われます。
そして枕飾りを撤収すると同時に、後飾りが設置されます。
枕飾りも後飾りも期間が過ぎたら自治体の分別方針に従ってゴミとして捨てることができますが、現在は葬儀会社の社員が引き取るのが一般的です。
枕飾りと後飾りは、(日本では)どのような宗教であっても用いられるのが一般的です。
そのため、ほぼ確実に目にすることになるでしょう。
しかし「本祭壇」は違います。
本祭壇とは、通夜~葬式のときに会場に設置される、大きな祭壇です。
僧侶はこの本祭壇の前で読経しますし、参列者はこの本祭壇の前に歩み出て焼香などを行います。
葬送儀礼においてもっとも重要視される祭壇だといえます。
現在はほとんどのご家庭が、セレモニーホールで葬儀を行うことになります。
このため本祭壇は、基本的には自宅に置かれることはありません。
ただ現在でもわずかながら、「自宅での葬儀(自宅葬)」を希望する人もいます。
この場合、自宅に本祭壇がしつらえられることになります。
今は花祭壇が人気を博していますが、白木祭壇も選ぶことができます(詳しくは業者に確認してください)。
ただ、自宅葬を行う場合は、「スペース」の問題が出がちです。
大きな本祭壇をしつらえたいのであればそれだけ広いスペースが必要となります。
広いスペースがない場合は、やや小さめの本祭壇でお見送りをすることになるでしょう。